近年のテンヨー作品で好きなもの
備忘録的に、近年のテンヨー作品で好きなものを挙げ、印象を述べていく。どれぐらいの期間が「近年」に含まれるかは、これは完全に自分の感覚的なものである(かなり雑かつ広い範囲)。
ゴッドハンド
このあたりまでが僕の「近年」の範囲なわけです。調べたら2012年の製品らしいが……
テンヨーファンにはおなじみ、今は亡きルーバーフィドラーの作品。トーン&レストアというおなじみのプロットに対する面白い解釈。
かつて常連のように彼のトリックがラインナップに入っていたころは、手品仲間のあいだで「ルーバーフィドラーのテンヨー製品は名作と○○(自主規制)が交互に発表されている」みたいな冗談をよく言っていたものだったが、それで言うとこれは(幸いなことに)前者に属する。
T&Rはその性質上、現象を反復するタイプのプロットであるが、「ゴッドハンド」では3ピースが一気に繋がったあと残りの1ピースが完全につながって復活するという手続きを踏む。現象の回数が1回省略されていて、これはトリックの原理から必然的にそうならざるを得ないのだが個人的にこの現象のテンポ感は小気味よくてむしろ好ましく感じる(前半と後半が非対称に見えるのも面白い)。道具立てのいかにも感が受け入れられれば魅力的な製品だと思う。
マジックバタフライ
マジックファンには周知の名前であった佐藤総氏がテンヨーの開発部に参加し、テンヨーの新製品として作品を出したというのは当時大きな話題だった(少なくとも僕の周りでは)。佐藤総氏のマジックもテンヨーも両方愛好していた自分にとってそれは見過ごせない「事件」だったわけだが、満を持して発表されたこの作品は道具立てや現象、解説の細やかさなどあらゆる点において魅力的であり、テンヨーの新時代を印象付けるデビュー作であったと思う(厳密に言うとこれ以前もイメージジェネレーターやプラスワントリックなどのコラボ作はあるのだが)。
テンヨー商品はもともと解説書がかなり親切、つまり詳しく書かれている方ではあると思うのだが、その通例の平均を大きく上回る密度と分量の解説書が付属していて当時笑った覚えがある。
必勝アミダくじ
So Satoが続く。
めっちゃ不思議らしいという話だけ事前に聞き及んでいた。現象のあらましを聞いてどうやったらそんなことが達成できるのか見当がつかず、商品が手元に届いて解説を読みながら試してみたところ本当に現象通りのことが起きたことに衝撃を受けた。自分でやっていても(原理が完全に理解できていないうちは)不思議だったのである。不思議さと構成の完成度でノックアウトされた度合いで言えばこれが一番であり、今でもある種の「完璧なトリック」のひとつであると思っている。
玩具として製造販売されている限り避けがたいテンヨー製品の「おもちゃっぽさ」というのがあって、これを嫌う人もいれば時にはかえって好きだという人もいたりするが、何かマジックを演じる場面で堂々とテンヨー製品を取り出すにはちょっと遠慮するという人が多数派であるのは事実だろう。その点において「必勝アミダくじ」や「マジックバタフライ」、またこれから挙げられることになる佐藤氏の発表作品のいくつかは、道具立ての設定がよく考えられていておもちゃっぽさの印象が気にならないか、あるいはキャンセルされていることが多い。
ところで工夫の付け入る隙がないような手順に思えるが、しばらく前に道具を手にして遊んでいたところ解説とは少し違う見せ方を思いついた。フェアネスを強調するためにオプション的に付け加えられている、とある検めに関する部分。
ハイパーESPカード
ESPカードはこれでいいんじゃないですかね。よっぽど特殊なことをしたいわけでもない限り、これ1セット入手すれば基本的なことがすべてできる。ESPカードというよう分からんアイテムについて丁寧に歴史的経緯から説明してくれる解説書も、実践的な手順が余すところなく紹介されているし、カードケースにまで手品のための意匠が潜んでいてサービスが行き届いている。
何より、このマーキングシステムは発明(鈴木徹氏の考案によるものだそう)。ここのアイデアだけでも多大な価値があると思う。まじまじと観察するより遠くから見たほうが目立つというのもすごいし、それを「見よう」と意識しなければ見えないというところが理想的。マーキングシステムってそういうものじゃないの? と言われそうだが、実際の道具を手にした人には「意識しなければ見えない」というのがどういう意味で言っているか分かると思う。
こういう商品はいつでも安価で手に入る定番品であってほしいのだが、テンヨー製品としては例によって例のごとくすでに入手が難しくなっている。
メンタリストの単語帳
これも佐藤総氏の構成によるもの。プラスワンキャンペーンで発表され、後に製品化した。
とにかくよくできている。複数の奇術的な仕掛けが相互に絡み合いつつ共存しているのだが、この構成の美しさとか奇術的な価値というのは正直言うと分かる人にしか分からない類のものであるとは思う。リンキングリングにおける1種類の繋ぎ外しがそれ単体で手品にならないのと一緒で、部分的な仕掛けに関しては「そういうもの」でしかないからだ。それがルーティンとして構造化されたときどのような価値を発するかというのは奇術的な想像力と勘がなければあまりピンとこないところはある。その意味ではやや玄人受けっぽいグッズでもある(奇術マニアに素人も玄人もあるかという話ではあるが)。何にせよこれはすぐレパートリー入りし、一時期よく持ち歩いていた。
素材が紙である以上、長く使っていると劣化は避けられないだろうと思い、プラスワンは複数注文したし、製品化してからも買った。こういうのを気に入ると何セットか購入してしまう癖がある。
ミラクルミルクチョコレート
見た目の愛らしさと奇術としての不思議さ、適度な難易度が兼ね備えられたテンヨーマジックらしい製品。
チョコレートというモチーフの選び方が絶妙、ということに尽きる。ミルクチョコとホワイトチョコというカラーバリエーションを導入したことで、根源的なひとつのアイデアが連続的に現象を起こす手順へと応用が利くようになっている。
ちなみに考案は鈴木徹氏によるものだが、これと似たような時期に発表されたテンヨーマジックとしてマジカルチョコレートというプラスワンキャンペーンのトリックがある。これもチョコレートの「欠け」に注目し、物理的な変形現象へと昇華させたトリックで、同じく鈴木氏の考案となっている。おそらく氏がこれぐらいの時期に熱中していたテーマだったのだろうな、と想像できるのが面白い。
サイコロ大集合
佐藤総氏同様、近年になってテンヨー開発部に参加したクリエイター、田中大貴氏考案によるトリック。チンカチンクというか、マトリクスというか、まあ大枠では「おなじみのプロット」と言えるのだが、それをこんな風に解決できるのかというところが目から鱗で、どういうところからこの機構を発想したのかということこそが不思議に思えてくる。演技中に怪しい動作は一切なく、道具の検めというかクリーンナップも無理なく達成されていて、完成度が高い。
フラッシュキューブ
コロナ禍によってテンヨーフェスが中止、代替的にオンラインの動画公開となった年に発表され、その動画の中で初お披露目となったと記憶している。
ここでも佐藤総氏らしい「手順構成の巧みさ」が光っている。現象を起こすためのベースとなるトリックというか原理は不変なのだが、連続で現象を起こしながら毎回微妙に異なる手続きを行うことで、観客の予想を上回ったり自然なサトルティが導入されるなどしており、不思議さを補強しているし、ただの「一発芸」にとどまらない「手品」に昇華されている。
ここに列挙したテンヨー製品の中でもかなり「好き」度が高い。小ぶりな箱にすべての道具が収まるというところもなんだか愛らしい。
奇跡のラストピース
実演経験があるかはともかくマジックファンはどこかで記憶にあるだろう、いわゆる「モナリザパズルの予言」。解説書ではこのトリックのクレジットをリー・アールに帰すものとしており、勉強になった。
どうやってこの現象を達成しているかが重要だが、ハードルを低く設定すれば100でも200でも解決案としては出せる。しかしこのプロットに対し真に適切と言える優れたアイデア──それも、初心者でも問題なく実演可能な──というのは難題に違いない。最近リニューアルされたテンヨーのサイトでこのトリックの開発にまつわるエピソードが読めるが、検討に数年を要したのだという。
時間をかけただけあって、まさしくこれぞ「改案」の鑑と言いたくなる素晴らしいアイデアになっていると思う。既存の原理の応用なのだが、さまざまな弱点をクリアしつつ、複雑にもならず、きちんとディセプティブであり、そして初心者でも実行可能だ。新たな手法の考案は小宮賢一氏による。
テンヨー製品のうちタネに感動した度合いで言えば上位を争うのだが、これもやはり手品というものをある程度知っているがゆえの感動であって、そうではない人がこのタネを知ってもおそらく同じような感銘は受けないだろう。できればこのタネが持っている価値とパワーが分かる人だけにこの秘密を扱ってほしいというちょっと傲慢な望みを抱かなくもない。でも本当にそれぐらいの手品であると思う。
ミスターデンジャー
いかにも機構、ガジェット感があり、全自動で現象が起こる。自分で動かしていても不思議さを体感できる、オールドスクールなテンヨー感のある商品。
昔のテンヨー製品では解説書を読んでもどうして現象がオートマティックに起こるのか理解しきれないような製品がいくつかあり、細かい隙間をのぞき込んだりして機構を想像するなどしたものだった(その過程で壊したり……)。ミスターデンジャーの解説書には今風にQRコードが付いていて、どうしてこんな現象が達成可能なのかを絵解きしてくれている。これのおかげで過去の自分のように購入物を速攻で壊すガキが減っているのであれば良いことである。
また、テンヨー製品に認められるいくつかの系譜のうちのひとつに「舞台で行うようなイリュージョンの小型化」というジャンルがあって、それを想起させる製品でもあるなと思う。
ところで自分が最初に購入したプロダクトはちょっと問題があって、ギミックが適切に作動しきらないクセのようなものがあり、結局2セット目を購入した。ロットごとにややムラがあるのかもしれない。
ミステリーショーケース
これもオーセンティックなテンヨー感のある、おもちゃ感、ガジェット感、機構の巧妙さが組み合わさった製品。
手品の歴史に古くからある原理として、状況のフェアさを補強するために用意されているものが実はトリックの達成に貢献しているという手法があるが、そういう巧妙さも一部に含んでいる。
何より現象が起こる直前まではっきりと検め可能なのが不思議だ。これもまたテンヨープロダクトとして非の打ちどころのない作品になっている。
ざっと列挙するとこんな感じだろうか。このほかに4Dプリンター、魔法の水鏡、サプライズメモ帳、THE写楽、ワンダリングボックス、逆再生ミラーなどなども好き。
つい最近テンヨーフェスがあって、同日に今年のテンヨー新作の促販映像も公式Youtubeチャンネルにて公開された。今のところ「Theマネーマシン」が「いかにも」な感じで興味を引かれている。
また少し前からテンヨーは過去作品のリバイバルもラインナップに含むようになっており、一昨年の「ピラミッドミステリー」に引き続いて今年は「ハイビジョンカード」が再販されるようだ。マーチンガードナーなどを驚かせ海外にテンヨーが紹介されるきっかけになった、音に聞こえる名作だが手に入れたことがないのでこれも楽しみ。ちなみに再販してほしいテンヨー製品は……何かあるかな……THEインポッシブルとか……?(本音を言うと魔法のスクラッチカード)
